#01 コーチングの本質(前編)

コーチング
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「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ」は中国の春秋戦国時代の思想家、老子の言葉です。生活に困った人に魚を与えれば一日で食べてしまうが、その人に釣りを教えれば一生食べていけるという意味です。本当に困った人には目先の支援ではなく、真の支援が必要になるのです。では、人を支援するコーチングにおいて「真の支援」とはどのようなものになるでしょうか。

人は悩んだり困ったときに「答え」を求めます。抱えている悩みが消える、課題が解決する解決策です。もし、『こうしたらうまくいくよ」「これをやれば大丈夫」というように、その答えを他人から与えられ続けると、人はどうなるでしょうか。自立できない、他人任せの人間になってしまうことでしょう。最悪の場合は何か問題が起こるたびに自分以外のせいにします。

「あの人が言ったとおりにしたらひどい目に遭った。(私は悪くない)」
「世の中がこんなじゃなかったら、自分はもっと楽な人生を歩んでいた」

人生を歩む途中で、誰もが選択を迫られます。普段の生活や職場でも、我々は大なり小なり選択を迫られているのです。そして自分の五感を働かせ、自分で判断し、選択した道を進む必要があります。では、自分で判断し、選択をするためには何が必要でしょうか。

コーチングの定義

世界最大級のコーチング団体である国際コーチング連盟(International Coaching Federation、通称ICF)では、コーチングを次のように定義しています。

“Coaching is partnering with clients in a thought-provoking and creative process that inspires them to maximize their personal and professional potential.”

(和訳)『コーチングとは、思考を刺激し続ける創造的なプロセスを通じて、クライアントが自身の可能性を公私において最大化させるように、コーチとクライアントのパートナー関係を築くことである』

https://coachingfederation.org/ethics/code-of-ethics

この定義から読み取れるのは、クライアントの思考を刺激しながら、クライアント自身が自分の可能性を広げることがコーチングであるということです。つまり、クライアントが自分で考え、自分の可能性を広げる行為がコーチングにおいて大切になります。決して、他者から与えられた「答え」や「選択」ではないということです。

思考を刺激することによってクライアントは自分で考え、自分で答えを見つけ出すことができます。コーチングにおいて、コーチの役割は「クライアントの思考を刺激すること」であり、クライアントの役割は「考えること」になります。コーチングによる支援は、老子のいう「魚の釣り方」、つまり「考える」という方法をクライアントに与えることなのです。

そこでまず「考える」ということについて学んでいきます。

「考える」ということ

無邪気な子供が目を輝かせながら『ねえ、考えるってどういうことなの?どうしたら考えることができるの?」と質問してきたら、あなたはなんと答えるでしょうか。多くの人が答えに窮することでしょう。なぜならほとんどの人間が考えるという行為を無意識に行なっているからです。そしてそれは外から見ることはできませんから、ほかの人間がどのように考えるのかを知ることすら難しいのです。

実際に考えてみましょう!

次の問題を解いてみてください。ある中学校の入試試験の問題です。

問題:下の2枚の写真は、1970年代にある都市で撮影されたものです。写真Aの数年後に写真Bが撮影されました。この都市がある都道府県名を答えなさい。(注:実際は写真ですがここでは簡略化したイラストを使用しています)

答えはすぐ下にありますが、少し考えてみてください。そして、自分がどのように考えているかをメモを取ってみましょう。ここでは正解を出すことではなく、あなたが頭の中で何を考えているかがポイントです。

あなたはどのように考えましたか?

さて、解けましたでしょうか。正解は「沖縄県」です。ここでは正解かどうかよりも、問題を解くときのあなたの思考の過程(解答を導く手順)を知ることが大切です。

この問題を解くときに必要な思考は以下の通り。

Q:この問題は何なのか?
A:2つの写真(絵図)から日本の都道府県名を特定する、という問題である。

Q:写真AとBは何を表しているのか?
A:バス、バス停、車道が描かれている。

Q:2つの写真の違いは何か?
A:車道に対するバスとバス停の位置が違う。

Q:その違いは何を意味しているのか?
A:右側通行と左側通行。ある時点から右側通行から左側通行に変わった。

Q:なぜそのようなことが起こったのか?
A:車は法律に則って動く。つまり法律が変わった。

Q:「1970年代」に行われた法律改正は?
A:1972年にアメリカ統治下にあった沖縄県の施政権が日本に返還された。

Q:では、考え得る問題の解答(都道府県)は?
A:沖縄県である。

このような思考プロセスで問題が解けるはずですが、途中のプロセスを飛ばして「沖縄県」にたどり着いた人もいると思います。しかし、意識はしていなくても脳内ではこのような思考回路が働いていたはずなのです。ここで注目していただきたいのは、上記の思考プロセスの成り立ちです。すべて「問い」から始まっています。

上記の問いでは次のようなことが行われています。

  1. 問題を理解する
    最終的に何がわかればいいのか、問題に取りかかる目的などを理解します。ここでは日本の都道府県を特定することが求められています。
  2. 情報を整理する
    問題文、写真(絵図)などから情報を読み取り、扱うべき問題の全体像を明らかにしていきます。与えられている情報は何か、未知のものは何かを探り、条件や制約事項の確認も行います。
  3. 本当の問題は何か?
    2つの写真の違いから「1970年代に右側通行から左側通行に変わった都道府県を特定する」ということが真の問題になります。ここで一気に解答(沖縄県)にたどり着いた人も多いはずです。

このような思考プロセスが発動されるきっかけとして「問い」があるのです。言い換えると問いは考えるきっかけであり、問いから思考が生まれるのです。この「問い」を自ら作り出せることができたならば、その人は自由に自分の求める答えを自らの力で導き出せます。また、迷ったり、悩んでいる状態の時はこの問いを自ら作れない状態なので、他者からの支援として問いかけてもらう必要があります。

コーチングの本質とは何か?

コーチングの本質はここにあります。クライアントが問いを作り出せないとき、コーチが肩代わりをして問いを生み出すのです。創造的な思考プロセスを刺激するのは「問い」です。これによってクライアントは広い視野で物事を考えることができ、自らの可能性を広げることにつながります。クライアントは答えや考えを押しつけてこないコーチに対して信頼を寄せ、ともに対等なパートナーシップを築くことができるようになります。

改めてICFの定義を確認しておきます。

「コーチングとは、思考を刺激し続ける創造的なプロセスを通じて、クライアントが自身の可能性を公私において最大化させるように、コーチとクライアントのパートナー関係を築くことである。」

実はコーチの問いかけだけで終わらないのがコーチングですが、今回のところは、すべては「問い」から始まることを理解しておいてください。

何よりもコーチングはコーチが問いかけ、クライアントが自らの力で答えを導き出すことが大切です。自分で判断して人生の選択を繰り返すためにも、自分の問題・課題を自ら考えて答えを出すことが生きる上で重要ですし、クライアントの成長につながるのです。それを支援するのがコーチングです。

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