#02 コーチングの本質(中編)

コーチング
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コーチは教えない?

ティーチングとは「教える」ことです。コーチングの「考える」とはどんな違いがあり、どのように区別したらよいかを考えていきます。

「#01 コーチングの本質(前編)」の中学入試問題を思い出してください。

答えは沖縄県でしたね。前回、問いによって答えが導かれることは理解しましたが、もしあなたに以下の知識がなかったとしたらどうなっていたでしょうか。

  • 1952年から1972年の日本への返還までの間、沖縄はアメリカ合衆国の施政権下に置かれていた。
  • アメリカは右側通行であり当時の沖縄も右側通行だったが、返還後に左側通行に変更された。

この知識がないと問題の正解を導き出すことは困難だったはずです。

また、絵図に描かれている「バス」「バス停」「道路の車線」や、バスが正面を向いているのか後ろ向きなのかが理解できないと、右側通行と左側通行を表現しているということが理解できないでしょう。見てわかること、これは「知覚の認知」といい、考える際に重要なプロセスのひとつなのです。これらの知識がない場合、正解にたどり着くためにどのようなことが必要になるでしょうか。

コーチングでは、次の2つのアプローチが考えられます。

  1. コーチが知識を教える。
  2. 知識を補うためにどうするかをクライアントに考えてもらう。

教える/教えないの分かれ道

コーチが知識を教えるメリットは時間がかからないことです。ただしコーチにも知識が求められます。デメリットはクライアントがコーチを頼り出すことです。コーチが何でも教えてしまうことにより、クライアントはわからないことがあればコーチに訊けばよいと考えるようになります。

この状態は、クライアントに考えてもらう、創造的な思考プロセスの妨げになります。もしくは何でも答えるコーチと接することで「コーチ=偉い」と錯覚し、対等なパートナーシップが崩れてしまうのです。何でも知っているコーチと自分を比較し、クライアントが自信を失うことさえもあり得るのです。

しかしながら、教えることは時間的な制約がある場合には有効な手段です。クライアントが締め切りの迫った問題を解決しようとしている場合など、セッションの時間内で答えを導くための知識が必要となるからです。この場合は「時間に余裕がないから、今回は私が知っている範囲でお伝えすると…」と一言付け加えるだけで、本来はあなたが調べることであるという意図が伝わり、クライアントがコーチに依存することを回避することができます。

2の知識を補う方法をクライアントに考えてもらうことは、時間がかかるというデメリットはあるものの、それ以外はコーチングとして好ましい選択といえます。

「どのような知識があれば解決できるでしょうか」
「必要な知識を得るためには、どのような方法がありますか」

などの「問い」を投げかけることで、クライアントは自らの力で知識を補う方法を考えます。考えても答えが出ないとき、どのような知識が必要で、その知識を得る方法を知ることも「考える」ことの重要な働きなのです。

まとめると、コーチングは「考える」ことを主眼に置きますが、クライアントが考えるために必要な知識を持っていない場合において、ティーチングが機能するということです。答えは教えられませんが、答えを導くために必要な知識は教えてもかまいません。ただし、コーチングの本質を理解し、極力ティーチングを行わないことが理想です。

ティーチングで気をつけること

ティーチングについて留意しなければならないことがあります。誰でも知りうる一般的な知識であれば問題ないのですが、専門性の高い知識を伝える場合には注意が必要です。

コーチが持つ知識がクライアントの置かれた環境でも正しいと判断できるか、その情報に従うとどのような影響があるのかをよく考える必要があります。特に金融、法律、医療など、時として大きなリスクを伴う事柄のティーチングに関しては、コーチング契約の範囲を超えるので専門の契約を結ぶなどの処置が必要です。

株式や投資に関わる金融商品の知識をコーチから聞き、クライアントが実際に金融商品を購入したことで大きな損害を受けることもあり得るのです。勧めたわけではなく参考情報として提供したとしても、クライアントから非難されたり責任を追求されたりすることも考えられます。また医療の知識であれば命に関わるリスクが生じます。もしあなたが金融、法律、医療といったその分野の専門家であったとしても、コーチング契約の範囲でアドバイスしない方がよいということを理解しておきましょう。

もしもコーチング契約の中で自分の専門領域の知識を伝える必要が出た場合には、「これはコーチとしてでなく、医師としてお伝えします」とクライアントに伝えてから話をしてみましょう。この場合でも上記のリスクは存在しているので、この点はくれぐれも忘れないでください。

コーチングとカウンセリングの違い

話の流れから少し逸れますが、コーチングとカウンセリングの違いにも触れておきます。この2つの大きな違いはその目的です。

コーチングはクライアントの「理想追求」を扱います。理想追求とは、理想の状態と現状とに乖離があることが問題であり、理想の状態に近づくために何をすべきかという話をするのがコーチングになります。

それに対してカウンセリングは「原状回復」を目的とします。現状の精神や行動に問題が認められた時に、その問題が起こる以前の状態に近づけることがカウンセリングなのです。多くは普通の生活が送れる状態ではないことが問題として扱われます。たとえば「不安」。明日の会議でのプレゼンがうまくいくかどうか不安で仕方がない。事業で行き詰まり資金繰りのことが頭から離れず寝付きが悪いなど、理由がはっきりしているのであればコーチングでも扱うことができますが、不安の理由が見当たらないのに不安な状態はカウンセリングの領域になります。

「傾聴」や「質問」など、コーチングがカウンセリングと同じ名目のスキルを使用するので、一見すると類似しているように見えますが、明らかに違うものといえます。また体系化された理論(学問や科学)ではなく、長年蓄積された経験や勘に頼る部分も類似している点だと考えられます。学問(科学)としての「心理学」を学ぶコーチも多いのですが、必要なのはカウンセリングの領域とコーチングの領域を区別できるだけの基礎知識で十分です。コーチングは心理学に依拠していませんので、あまり多くを惑わされないようにしましょう。

コーチングとコンサルティングの違い

カウンセリング同様にコンサルティングもコーチングとよく比較されます。

ここでいうコンサルティングとは「専門的な知識を他者に提供すること」を指しています。目的は問題解決、課題解決です。コンサルタントはクライアントの抱えている問題を分析し、課題を抽出、そして解決策を提示します。それに対してコーチングは、これらの作業をコーチの問いかけによってクライアント自らが考えることになります。

もしコンサルティングとコーチングが一緒の値段なら、あなたはどちらを選びますか?

答えが欲しいだけならコンサルティングの方が楽ですし、時間的にも早く解決するのではないでしょうか。にもかかわらずコーチングの需要はあるのです。この答えを考えるとコーチングの本質が見えてきます。

自分で考え、自らの力で解決する。こうした事が出来るようになる「自己成長」を求める人がコーチングを選択します。つまり成長が鍵を握っているということです。コーチングは自らの力で前に進んでいるという実感を得ることが出来るのです。

コーチングは理想追求、目標達成、問題解決といった表面上の目的だけでなく、その土台となるクライアントの成長が大切なのですから、このことをコーチは片時もそれを忘れてはいけません。

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